雨の物語
2004/10/20

 化粧する君の
 その背中がとても
 小さく見えてしかたないから
 ぼくはまだ君を愛しているんだろう・・・
               「いるか 雨の物語」より


 こんな雨の日に
 君はどこへ行くの
 なにもこんな日に
 出て行かなくてもいいじゃないの
 ぼくに背中を見せたまま
 君は化粧をしている
 いつもより時間をかけて
 化粧をしている
 小さな細い君の背中が丸い

 鏡越しにぼくと君の眼が合った
 君は鏡に顔を少し寄せ
 きっとにらむようにして
 ぼくを見すえ
 それからわずかに微笑んだ

 ほんのわずかな時が流れた
 ほんのわずかな時だったけど
 ぼくの心に永遠の時を刻んだ
  
 鏡から君の目の光が消えた 
 君はぼくから目をそらしたね
 君は念入りな化粧を再び始めた
 君の小さな細い背中を抱きしめたいが
 今の君はそれを許してくれそうにない

 入念な化粧を終えた君は
 いまドアの前にいる
 そしてぼくを振り返る
 今日の君はとってもきれいだ
 君はドアをじっと見つめている
 小さな細くきれいな君の背中が
 ドアを開けるのはあなたよと言っている

 こんな雨の日に君はどこへ行くの
 なにもこんな日に
 出て行かなくてもいいじゃないの
 君は再びぼくを見る
 ドアを開けるのはあなたよと言っている

 君と出会ったのもこんな雨の日だったね
 ぼくたちは二年の年月(とき)を暮らしたね
 そして君はきれいになった
 君がこんなにきれいになったことに
 ぼくは今まで気づきもしなかったよ
 ただ愛していただけだった

 君はもうぼくだけの君じゃないみたい
 君はいつの間にか
 ぼくの知らない世界を持ったのかな
 優しく愛撫した君の背中は小さく細い

 君はドアをじっと見つめている
 ぼくがドアを開けてくれるまで
 君は多分一日中ドアの前にいるだろう
 君はそんなにも出て行きたいの

 ぼくはドアのノブに手をかける
 君はぼくを少しよけるようにした
 ぼくは切なくドアノブを回した
 ドアは音もなく動いた

 ほんの少し開いたドアの隙間から
 音もなく君は出て行った
 うれしそうに尻尾をピョンと立て
 お尻を左右に小さく振りながら出て行った

Cools