毎週土曜日に行くスナックへ当日寄らずにほかへ寄ってしまった。
その日は生憎の一日中雨。ある会の集まりが夜にあって、雨が降っているので行こうかどうしようかと思案しているうちに夕方になってしまい結局雨の中を出かけていくことにした。私は免許証は持っているのだが車を持っていないし、車を運転することも好きでないので、今や10数年来の完全なペーパードライバーである。車に乗らないんだから無事故無違反で、このゴールドカードが目に入らぬかってもんである。
「おまえさん、そんな角ばった固い名刺みたいなもん目に入るわきゃないだろう」と言いながら、続けて「そんなことよりもせっかく免許証だってあるんだから、私の車でどこか隠里の秘湯へでも連れて行っておくれでないか」と姿を作るようして、白い瓜実顔の肉厚な小さな形の良い口を真っ赤に塗って言葉が出てくる。
こんな切り替えされちゃあこっちとしても、「えっ。おめえみてえなおかちめんことわざわざ隠里へなんかいかなくったって、ほれこうやって手をお前の股座に入れりゃあ。うんうん。茂みを分け入っての、秘湯が待ってるってもんだい。とと・・・」
「ちょいと、あんた。なにすんのさ」と手で相手の手を払いながら、「そんなピザを食べていた脂ぎった手で触らないでおくれよ。お湯が濁っちゃうだろう」と笑いながら、さらに「だいいち油でお湯が汚れちゃあ気色悪いだろう」と続けた。
「えぇへっへ。お湯の量も少なくなりゃ、ちょっとの油でも湯も濁ろうってもんかねえ」
「油で濁ったほうがかえって通りが良くなろうってもんだい」
「おまいさん。口は本当に達者だけど、最近肝心なほうはからっきしじゃないか」
「だから。あたしの秘湯だって、お湯の量が減り続けてきているのさあ」
「うむむ。ちげねえ。確かに俺にも責任はある」
それを聞いてにじり寄りながら「ね。ね。だ、だからね」
「河岸でも変わったらどうにかなるかと思って、何処かへ行こうって言っているんじゃないか」
「ちゃんと。あんたが、どうにかしてくれないと、あたしゃ、からだが熱いんだよう」少し胸をさするようにわざとっぽい演技の演技しながらぽっと言い放った。
缶ビールをグラスに注ぎながら、「からだが熱いって。おめえ、鳥インフルエンザでもかかってんじゃねえか」
「ちょいと、なに言ってんだい」と赤い口を尖らす。
目をきっと見開いて怒った風に装って「ほんとにおまいさんたら。口ばっかり動いてえ」と、これもどこまで本気なんだか。
「おっとと、こりゃいけねえ」
「なんだい。ちょっとは済まないと思ったのかい」
「そうじゃねえビールが無くなった。まだあるかい」
「なんだい。まったくもう」と言いながらも立ち上がって冷蔵庫へ向かう。冷蔵庫から缶ビールを取り出し缶ビールのプルトップをぷちっと開けてから中へ押し込み、閉まりかけた冷蔵庫の扉をお尻を振るようにしながら押してパタンと閉じた。
「はい。おまいさん、うんと冷たいのだよ」と言いながら、グラスにビールをとくとくと注ぎ終わるとグラスを差し出す。 そして「あたしゃあ、うんと熱くて濃いのが、体の中に欲しいけどねえ」と顔を覗き込むように言った。
受け取ったグラスを口に持っていきながら、少し体をそむけながら「おっととと。今日は何を言ってもやぶ蛇になりそうだなあ」と言いながらもちっぴりにやけたようす。
「ほんとだよ」と笑いながら「おまえさんの冬眠しちゃったみたいな赤ちゃん蛇より、やぶ蛇でもいいから太くて長いのが出てきて、あたしをその体できつくぐるぐる巻きにしてから、うんとなぶって欲しいもんだねえ」と裾を広げるようにからかっている。
そんなからかいを見て、やっとその気になったのか「じゃあおめえ。冬眠中の蛇を起こしてみなよ」と言って、手にビールが半分ほど残ったグラスを持ったまま、ソファーに深く座りなおした。
うれしそうにソファーの前に立ち手で相手の脚を開いてにじり寄る。少し裾をはしょっりながらそのままソファの前の床に腰を下ろしかけながら足を開いて「ハの字」にし、足を「ハの字」にした中へ尻を入れてから一度座った。すぐに尻を上げてソファーの縁にお腹を押し付けて、上半身を近づけ顔は上向きになって相手の目を覗き込む。同時にするりとりと赤い蹴出しから白い両の手が伸びて相手の腰のベルトを緩める。そしてズボンとパンツを一緒に引き下げる。ズボンの下げるのに合わせて相手も腰を浮す。浮かした腰を下ろして座ると今度は両の足を少し上げズボンは引き抜かれた。
白い顔の小さな真っ赤な口が開き深淵な暗闇が見えた。口紅の中の深淵からするっと赤い舌が伸びた。冬眠中で薄白くなった蛇の頭を下から上へぺろりと赤い舌が舐め上げた。舐め上げられて冬眠中の蛇の頭がふにゃっと上り、少し血の気を帯びて膨らみ加減になってからスローモーションのように降り下がる。舐め上げた舌は赤い口紅の右の口角で先を尖らせている。その尖らせた舌を口の中ほどに戻しさらに突き出して尖ら、せゆっくりと降りてきた蛇の頭の割れ目をめがけて押し入ろうとしながらも、その舌は蛇の頭を真っ赤な口紅の中に引きずり込むよう見えて白い顔が蛇の体の三分の一ほどをも呑み込んだ。吸い込んで白い頬が窄む。
湿潤な暖かい洞窟の中に引き込んだ蛇の体を赤い舌が洞窟の中で動き回り蛇の下腹部をまさぐる。さらに顔が左右に動く。白い顔に真っ赤な口紅が丸くきりりと美しいい。暖かい湿潤粘着質の中でむりむりっとばかりに蛇は生気を帯び自身の薄皮もはち切れんばかりに膨らんだ。はち切れんばかりに膨らんだそれで真っ赤な口紅の口角も切れよとばかりに唇は広がる。広がった唇の色がやや濃い目のピンクと赤い色の縦の縞模様風になりかけると、冬眠中の蛇は荘厳な太い百日紅のつややかな幹と化し、白い顔の大地に百日紅のよく磨かれたつややかな古木が植わっているかのようであった。すでに白い顔の中には冬眠していた蛇の頭の部分ぐらいしか納まらない。体をソファーの前のテーブルに送るようにして手に持ったビールをテーブルの上に置いても白い顔はついて来る。ビールを持っていた手を相手の後ろに回して右腰にあて、もうひとつの手を逆さ手にして左越しに当てると、納得したかのようにままソファーの上に上半身俯けになった。裾をめくり上げると、赤い裳裾が白い肌に絡みながらも白い二つの山形の球が見える。腰からやや急激に広がった逆ハート型した白い尻だ。その白い尻が脂を乗せて透き通り青白い静脈を浮かせ光っている。両手でお尻をさすり、次に右手が谷間へと伸びて行き、中指のみが先陣となって深き谷間に入っていく。中指は人肌の湯があふれていることを確認しても、さらに悪戯をするように湯の中に入って行き、湯を指でかき回す。中指につられて人差し指も入っていく。中指人差し指それぞれに湯の中で前後にダンスをするように動き回る。それまでは堪えていたのか赤い裳裾がゆれ白い尻がもぞもぞと動く。萎えかけていた太い百日紅の幹がまた怒張し光る。両手で腰を持ち上げれば相手も腰を突き上げ、逆ハート型をした谷間を分けて待ち受ける秘湯へとそれは押し入る。秘湯の湯船の薄幕が太い百日紅のつややかな幹に何ひとつの感覚も逃すまいとばかりにぴったりと纏い張りつく。薄幕が張り付いて行く先の無くなった湯は、湯船よりあふれ白い太ももにすうっと光る糸をたらして垂れいく。
「お客さん。お客さん。終わりにしますよ」そんな声に我に戻ると、目の前に白い顔に真っ赤な口紅を塗ったスナックのママと思しき顔があった。ここはどこだと言うような顔をすると「お客さん初めて来たのに、来たときにはもうほとんど酔っ払っていましたね。まあ、また来て下さいね」白い顔の真っ赤な口紅が言った。「今日は雨で暇なので少し早いけど、他の客も帰ってお客さん一人だし、悪いけ少し早仕舞いしますね」「ところでお客さん雨はまだ強いけどどうやってお帰りになります」「良かったら送っていきますから私の車にお乗りなさいな」という目が妖しく光った。
送ってくれるというその車は真っ赤なポルシェだった。きれいに磨きこまれた真っ赤なポルシェ。白い雨の中を真っ赤なポルシェが走って行く。10分ほど走って真っ赤なポルシェはマンションの地下駐車場にすべり込んだ。まだ走り足りなさそうなポルシェに、ママは空アクセルをうぉんと吐かせてエンジンを切った。
「ここなの。小さなマンションだけあたしのもの、どうぞ」と言って鍵を開け中に招き入れる。
「ビールでしたね」と言って缶ビールとグラスを盆に載せて持ってくる。「おつまみに冷凍のピザ、いま焼くわ」
ソファに座ってキッチンに立つ着物姿の小柄な後姿を見つつ、グラスに注がれたビールを飲みながら「ママあんな車よく運転できるね」
「私は真っ赤なポルシェが憧れだったの」
「普通車と比べたら運転しにくいでしょうに」
「そうなの、でも、それがいいのよ」
「へえ。そうなんだ」
「そうなのよ。おまえさん」
「おまえさんって・・・なあに、それ」
「あっ、ごめんなさいね。あたしはおまえさんとか、あんたとか昔の下町風のしゃべり方のほうが気楽なのよ。いつも一人でテレビに向かってこんな風にしてしゃべっていたら、家だとこんな喋り方が癖になっちゃってね」
「へえ。そうなんだあ」
「だからね、宅急便なんかの人がきても、つい『そうかい。ありがとうよ』なんて言っちゃうんだよ」と言いながら自分でくすりと笑っている。
「へえ。じゃあ、あわせてそんな風にしゃべってみようか」
「おまいさん。そうしてくれるかい」
「なに言ってんだ、おめえ、俺はいつもこういう口の利き方じゃねえか」
「あら。上手だねえ、おまいさん」
Cools
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