声がした。
でも、誰もいない。
いや、誰もいるはずもないのは分かっているが、なぜ誰もいないのに聞こえて来た、あの声ってなんだったんだろう。
テレビの横には一人用パイプ式の簡易ベッド。そのベッドの壁側には乱雑に積んだ多く雑誌と、それに寄りかかるように大きいのやら小さいのやら雑多なぬいぐるみの山。さらにその上に脱ぎ捨てたような汚れた下着が積み重ねてある。テレビの前の壁には二人がけのソファ。その上には着散らかした服が山となっている。床にもスナック菓子の空袋や空箱。空のペットボトルに混じって、飲み残して変色した飲み物が入ったペットボトルも少なからず見える。肝心なテレビの上には色々な化粧品が置いてある。
「あんた誰」と、また声がした。今度ははっきり聞こえた。首を少し下向きにして自分をみてる。やっぱり自分で出した声なのだろう。泣きながらの自分の独り言の「あんた誰」。テレビを点けたまま、そのすぐ前に胡坐に座った太ももにぽたりぽたりと涙が落ちる。鼻水もたらーんと垂れる。ゴミ箱のような部屋の中でティッシュボックスに手を伸ばしてティッシュを二枚出して洟をかむ。ついでに涙もぬぐう。ティッシュはべとべとになってしまったので、もう二枚ティッシュを取り出しまた洟をかむ。それをその辺に投げ飛ばす。その辺といてもその女にとって洟をかんだティッシュを投げ飛ばした辺りはごみ置き場のようなつもりでいるらしかった。
「あんた誰」って誰よ。私は誰に言っているんだろう。自分にはあんたって言う相手なんていやしない。だいいちなんで泣いているのかも分からない。それなのに泣きながら「ちょっと。なにすんのさあ、あんた」なんて、それこそ「ちょっとそれってなあに」って聞きたい。そう呟いてる顔は小さな卵形で、大きく深い目につんとした鼻先と肉感的な形の良い唇。化粧っけはほとんどないが、目だけはアイラインを引き、長いまつげにはマスカラを塗ってあるので大きな目はより大きく目立つ。
髪の毛は肩ぐらいあって頭頂部から毛先に向かって黒から明るい茶髪へのグラデーションとなっている。黒から明るい茶のグラデーションと言えば聞こえが良いが、しばらく髪を染めていないみたいで元の黒髪が伸びてそうなっただけだ。髪の毛にはふけや脂がついているみたいで、埃っぽい髪の毛だが実際は脂っぽい髪の毛となって纏いついている。この髪の毛を洗うにな何度も洗い直さないとシャンプーは泡立ってこないだろう。
生気のない顔だが、その大きな目をさらに魅力的に見せる顔と体つきをした女だ。10人並の女どころではない。胡坐を掻いて座っていると小柄に見えたが、ふらりと立ち上がると足が長く背は高い。細めの体を揺らしながら乱雑に散らかった床をその女は歩く。唇が動き「あんたって誰よ」と自分に言っているかのようだ。どうやらトイレに行くみたいだ。
便器に背を向けた。何日も洗濯をしておらず湿気を帯びて重たそうな下半身にまといつくジーンズのベルトを長い指で緩めてジーンズを足元まで下ろした。パンティは穿いていない。白い下半身の狭い逆デルタ地帯のビーナス丘に稲の苗代のようなまっすぐな陰毛が中央に寄せるように密生している。足を開いて立っていると、左右の太ももの付け根に5cm前後の間ができる。ピンク色をした女性自身が濡れ気味に見える。
トイレの便座に座ると女は両手の肘をそれぞれの太ももの上に置き背中を丸めて体を低くし激しく音を立てながら排尿をした。排尿が終わっても女は便座を立たない。女は自分の右手で陰部を触っている。指をじゃんけんのチョキにすると尻のほうへ指をもって行き、チョキにした中指と人差し指で女性自身と太ももの付け根を人差し指と中指でそれぞれなぞる。ゆっくくりとゆっくりと何度もなぞる。女の口が少し開く「あんた誰」と手淫をしながらもあえぐように言う。
前後に動いていた腕は動きを止めた。腕は動きを止めたが二本の指は太ももの内側の付け根をなぞっている。親指がわずかに動きだしビーナス丘逆デルタの境目の稲代のごとき陰毛が生え出している部分を強く揉むように押さえつける。女の体が小刻みに動き出す。口はさらにぽっと開く。白い上歯が覗く。白い顔に赤みが差す。中指が自身湿った中に入り込んで動き出すと、これまでのこれまでの代わりに薬指が微妙に動いている。
さらに人差し指が自身の湿った中に入って動き出すと手の平は女性自身を包み込むように押さえ込み吸いついて、親指が陰各部分を強くもみ押すと女は「ああっ」と呻いた。それでも手の動きは止まらない。やがて、女は何度か呻いて疲れたのか自分の女性自身から手を離した。それでもまだ熱くなったその部分を指で触っている。触っていた熱くなった部分の熱が取れると、女は拭きもせずにジーンズを引きずり上げて、何事もなかったかのように淫らな部分をその中にしまいこんだ。そして「あんた誰って、あんたはあんたよ」と顔をやや上に向けて何かを覗き込むように言った。
女はトイレを出てテレビ前で胡坐をかいていた部屋に戻ってきた。こんな演出の部屋も慣れてくるとこんな風に乱雑になっているほうが落ち着く気分になってきている。半日の仕事が終わってこれから帰る自分の部屋はIDKマンションながら、テラス側に面した広いダイニングリビングがあり、右奥に寝室があって寝室側にも窓のある明るい角部屋だ。このマンションは両親が亡くなってから親が持っていた家と土地を処して分買ったものだ。
ふとしたきっかけでインターネット覗き部屋のモデルなんて仕事を始めたけど、最初はこんな仕事と思ったけど毎日何もしないのは詰まらないし辛い。それで慣れれば結構高収入だし、私がここで一番のアクセス数を稼いでいるので大事にもされているし、仕事もなれてくれは結構面白いし、自分にもこんな面があったのかと最近は思うようになった。手でしたって感じたことはないけど、そんな振りをしていれば興奮する人が入るって考えると、それでちょっとぐらいは感じることもある。
メイクを落とし着替えをすると別人の顔が浮かび上がる。これならインターネット覗き部屋の住人だと誰も思う人はいないだろ。仕事先のマンションを後にする。この面白くなってきたけど、それでもいつまでもこの仕事は続けられないなと最近思うようになった。といって他の仕事はできそうもない。親の財産を処分してマンションを買ったが、その残りの金で一生を細々と食べていけることはできる。私に生活力なんてないのだらかと、これは最初からの計画でそうした。
これまで何人かの男もいたけど、どの男とも一度も感じたことはない。どの男も私の上に覆いかぶさたがり、激しく腰を動かしては果てて行った。感じた振りをしていたけど、それで少しでも早く終わ欲しかったから。本当は他人に触られるだけだって気持ちが悪かった。それでもそのころは一人が寂しいような気がしていた。でも、男に吐き出されるたびに、ごみだらけの部屋のごとくに自分が汚れるような気がする。やっと最後の男と別れてからは、もう男と交渉を持ったことはない。
「かちゃり」とマンションの鍵を開けて自分の部屋に入る。靴を脱いでフローリングに足を下ろす。足に埃がまといつく。女はダイニングに向かって歩いていく。うっすらと埃が積もったフローリングの床は歩く部分だけが光っている。フローリングの床の片方の壁側には取っていたころの新聞が乱雑に積み重ねられている。上のほう数ヶ月はほとんど新聞を広げたようすもないままに積み上げられている。
女は「ただいま」とポツリと言った。「お帰り」と返事がきた。続けて「今日の仕事はどうだった」と問いかけがあった。
「いつもの通りよ」
「コンビニで、いらっしゃいませって言って、にこにこ笑顔を振りまきながらレジ叩いてきたわ」
「そお。あなたの笑顔は私が見ても素敵だもの。お客さんも笑顔の素敵な店員さんで喜ぶんじゃない。あなたはとても可愛いわ」
「ありがとう」と、言いながら女はモニタの前に胡坐座になった。モニタにはとあるマンションの一室が写っている。モニタに写っている部屋はごみであふれんばかりに乱雑で汚いありさまだ。その点ではこの部屋との大差ない。その一室のテレビの前に女が胡坐を組んで座って、泣いているのか俯き加減で肩を落としている。
モニタを見ている女は言った。
「あんた誰」
Cools
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