ちょっといいかも
2005/01/19

 「それっていいかも」
 ふいに声がした。
 「あんたに似合ってる。買っちゃいな」
 ショーウィンドウに背を曲げたまま、顔だけを声のほうに向けた。レーザーパンツを穿いた華奢な腰周りに細そうな太ももが二本見えた。太ももと太もも少しの隙間から少しだけ上り坂になった歩道に、通行人の行き来が見える。空も遠くに見えた。空はちょっと鉛色っぽい湿った感じだ。

 「俺が買ってやろうか」
 続けて声が上からした。
 声の降ってきたほうへ両の足から腰へ、腹へ、胸へ、首へ、顎へ、口へ、鼻の穴へ、眼へと視線を移していく。腰の周りには細い腰に緩く締めただけの太目のベルト。ベルトの回りにはこの寒いのに薄めのティシャツが腹の程よく鍛えた筋肉を垣間見せている。胸は乳首だけがなぜかティーシャツを持ち上げている。寒いので乳首が硬くなっているのだろうか。丈の短い黒の皮のジャンパーを羽織っている。全体的にセンスは悪くない。それに身につけているのも一見ラフっぽいけどどれも安物ではない。
 「じゃあ、買ってちょうだい」
 眼を射るように見つめながら言った。
 「いいよ」
 「待ってなよ」と言って、その男は目線をはずさずに私の後ろを側に回り私の後ろ影になったところで、私の突き出した尻に触れそうに歩いて通り抜けて店の中に入っていった。いや、触れそうにじゃなく、やつは右手3本の指で私の尻をななぜるようにタッチしていった。触られた感触はなかったけど中指は私の谷の部分にもタッチしていった。


 「なあにい、これえ」ブティックの袋から取り出したバッグを見て佐和美が驚いたように言った。
 「それ、あんたが、佐和美さんが、欲しそうに見つめていたものじゃないか」レーザーパンツの男は純哉は立ってL'Arc〜en〜Cielの・瞳の住人・を歌いながら答えた。
 「えー、あたしが欲しかったのはジャケットよお」
 「ショーウィンドウにかけてあったやつう」
 「これは素敵だけど、その下に置いてあったバッグの方じゃない」
 「でも、感触のいいバックね」と佐和美は続ける。
 「だろう、だからそれいいよって言ったんだ」ちょっと得意げな純哉。
 「それにジャケットの下の方ばかり見ていたから、てっきりそのバックに見とれていたのかと思っちゃったんだ」
 「バックもいいなあと思ったけど、あのジャケットの裾のほうに値札がついていたから、いち・じゅう・ひゃくせんって幾らするのか見ていたのよ」と、佐和美はいった。
 「なんだ、それじゃその俺のバッグ返せよ」純哉は・瞳の住人・を唄いながら佐和美の側により手を伸ばした。
 「だめよ!」佐和美はバッグを両手に持ったまま純哉が手を出してきた反対側に体をひねり「これはあたしのもの」と、思い新たにいった。一見シンプルなデザインのバックだけどそのデザインのセンスが何処か微妙に違う。それに縫製だって実に丁寧だった。
 「もう俺のじゃなくて、これはあたしのものよ」ときっぱり言った。
 純哉はその言葉を聞いて
 「それ、俺の作品なんだ」とうれしそうにぽそりと言った。
 「えっ、なあに?」と聞き返す佐和美。
 「だからそのバック、俺が作っているオリジナルブランド」

 なぜか純哉は革製品が好きだった。自分でも色々な色のついたなめし皮を手に入れて色々な小物を作るのが好きだった。それで高校卒業後すぐに伝を頼ってそれほど有名ではないがしっかりしたオリジナルな製品を作る知る人ぞ知る革製品の工房に見習いで就職した。好きで入った革製品工房だったが、同じような作業と同じような型の繰り返しで三年もすると飽きてそこを飛び出し、自分の住むマンションで「革製品・哉工房」を立ち上げオリジナルブランドの革製品を作り出していた。幾つかのブティックに委託で展示してもらおうと思っても最初のころはどこの店からも相手にされなかった。

 そんなことが数年も続いていた。それでもアルバイトをしながら作品を作ることは止めなかった。一枚の革をいかに効率よく色々な作品にしていくか、そのことを考えるだけで気分が高揚する。一年ほど前にバイト先で知り合った友達の誘いでフリーマーケットの手伝をした。その友達は夫婦と子供の生育過程にあわせて不要になったごみの様な品々を並べていたが、それでもそんなものが結構売りさばけていった。もっとも値段も数百円で安いものだと10円とか20円だけど、ごみとして捨てるよりはよっぽど良い。

 それから純哉はすぐに市町村のフリーマーケット出展公募があると申し込み自分の革製品を並べるようになった。でも、世の中そんなに甘くない。最初に売れたのはわずかに3000円のアクセサリーだった。次も同じようなものだった。それでいつのころから値段を半額以下にしたら、面白いように売れて売れてトランクと後部座席まで積んで持っていった製品はいくつも残らないほどに売れた。そのときの売り上げは二十数万円もあった。

 純哉はバイトを止めた。次のフリーマーケットまでに並べる作品を作るためだ。寝る間も惜しむようにして作った革製品も持って行けばほとんどが売れてしまう。こんなことを繰り返していてのある日。フリーマーケット会場の製品も並べ終わり、マーケット会場がオープン時間となってぼつぼつと人が入ってくる。一人の男が純哉の売り場に立った。男は全ての品物を買った。そして名刺をよこしてここに届けてくれと言った。それが先ほど佐和美がショーウィンドウを覗いていたブティックのオーナーであった。ブティックのオーナーはおまえの作品には品性と色気がある。フリーマーケットなどでその才能を枯渇させるまねは今後はするなと言った。

 「そお、これ純哉が作ったの」
 「見直した」
 「うん、さっきのエッチより上手う」
 「ねえ、もう一度して」

 ブティックの袋をぶら下げて出てきた男。この男なんだかなあと思ったけど、まあいいやと思った。佐和美は純哉と名乗った男とどちらが誘うでもなく近くのカラオケボックスへ入った。駅前に出来たばかりの6階建てのカラオケボックス。佐和美が一度入ってみたかったところだ。

 カラオケボックスに入るなり佐和美はふあっとお尻を撫でられた。純哉が黒の革ジャンを壁掛けにかようと佐和美の後ろに回るようしながら触っていったのだ。
 「やっぱり、さっき私のお尻撫でたでしょう」
 純哉はそうしゃべる佐和美の口を自分の口で被った。純哉の舌が佐和美の口唇を舐めながらも口の中に割り込んでくる。歯を閉じている佐和美の歯と歯茎を舌先で舐め回しす。舌先は右に左に上に下にと動いて何度も何度も佐和美の歯と歯茎を舐め回す。丁寧に歯と歯の境、歯と歯茎の境をなぞるように舐めていく。佐和美は呼吸が荒くなり歯を閉じる力も消えそうになる。力が消えそうになって下顎が少し下がり閉じた歯の力が緩むと、そこに純哉の舌先が割り入って佐和美の舌と絡む。純哉の舌が自分の口に戻ると、佐和美の舌を吸い込んで純哉の口に引き入れようとする。佐和美は舌伸ばして純哉の口に預ける。純哉は自分の中に入ってきた佐和美の舌の中央部分を歯で何度となく軽く噛む。右手は佐和美の尻を弄っている。
 「ああっ」と佐和美が小さく声を上げ、体の力が抜けて床に崩れ落ちそうになるのを純哉は支えて、佐和美を後ろ向きにしてジーンズのボタンを外しズボンを佐和美の膝の辺りまで下げる。すぐに佐和美の中に純哉の熱い物が入ってきた。カラオケボックスのドアの死角とはいえあまり大きな声を出されてはまずいとあらかじめ思ったのか「あっ」と声を上げそうになる佐和美の口を純也はすぐさま左手でふさぐ。
 佐和美の口をふさいだ指の間に佐和美の伸ばした舌が絡んでいく。純哉やの指先は佐和美の口の中にも入っていく。右手は佐和美の小さなビーナス丘の茂みをまさぐりながら陰茎を巧みに刺激する。二人の体が前後に揺らぐ。時にぐいっと激しく動く。佐和美の足にはほとんど力が入っていないかのようだ。純哉が下から突き上げる。突き上げるたびに純也の先が佐和美の子宮の中にまで入り込みそうに子宮口に当たる。純哉の右手は自分のものが入った佐和美の膣口を指で時計と逆周りに撫でていく。親指は陰茎を刺激することを忘れない。純哉の先が佐和美の子宮のドアをノックするように突き当たるたびに佐和美の思考は白濁して行く。

 何度かの突き上げがあって純哉の左手の動きが止まり、右手親指が佐和美の陰茎を強く押さえつけたて純哉は果てたようだ。そんな感じを受けて佐和美の意識は完全に白濁し牛乳を流したような白い闇になったとき、部分部分に力が入っていた筋肉全てが弛緩した。男の果てるときは女には分からない。中に出したかどうかも実際は女には分からない。女の膣の中はそんなに敏感ではないのだ。女は膣口の刺激で感じるのだ。膣口で流れ出るものを感じ、佐和美は逝った。

 気を失ったわけではないが佐和美が改めて気がついたような感じがしたら、純哉がL'Arc〜en〜Cielの瞳の住人を唄っていた。純哉ってなんだか、ちょっといいかも。そう思った。佐和美がソファーに下ろしていた手を動かすと何かにぶつかった。横を見るとブティックの袋が目に入った。

Cools