彼女とさよならをしたつもりのぼくは、とても孤独な気分だった。いや、そうなるはずだったけど、彼女はもっとなんと言えばよいのか、こんな事もちょっとした出来事と捉えて屈託が無いほどの明るい女だった。
次の日には彼女から電話が入る。えっ、ぼく達は分かれたのじゃなかったのかなあ。そんなポニーとクライドのクライドの雰囲気も味合わせてくれる時間もない。電話でちょっと愚痴口言いかけると、あんた、私と付き合う気が無いのなんて言われてしまう。それから車で彼女はやってくる。電話では昼食の約束をいつの間にかしていた。ぼくは彼女の車に乗り込み、喫茶店で二人で遅い昼食をサンドイッチとコーヒーで摂る。
ううむ、何だこいつは! ぼくはこんな楽天家といおうか屈託なく明るい女を他に知らない。沖縄の女はみんなそうなのか。いやそうばかりじゃないだろうけど。ぼくはこういった女が好きだ。心底性合う。でも、彼女は一体ぼくのどこが気に入ったのだろう。彼女と話をすると彼女はかっこいいいい男がハンサムが好きだという。ううむ、ぼくは自分で自分が大好きだけど、どう見てもかっこいいとかハンサムなタイプとは対極にいる人間だ。
ハンサムなタイプとは反対にいるが、どういうわけかスナックなどでは女性に比較的もてるような気がしている。ただ、異性の対象としてもてているような雰囲気はあまり無いけど。女性は寄ってくる。その反対で男性客からは先ず仲間扱いにはされない。私もそういった客とは打ち解ける事がほとんど無い。性格的にアルコールを飲んで酔っ払って気が大きくなったりする事も無い。それでももしもの時は、飲み屋で何かあればいつでも喧嘩ぐらいOK状態の心構えはしている。といっても自分で喧嘩を仕掛けることはない。
喧嘩なんかした事が無いので、多分ぼくには喧嘩なんて出来ない。あるスナックで一度喧嘩みたいな事をしたことがあるけど、それは相手がかなり酔ってぼくに難癖をつけてきたからで、喧嘩になりそうだからママぼくは帰るね。といって勘定をして店を出ようとしてもまだ言いがかりをつけてくるので、片手でちょくら首を締め上げそのまま何度かカウンターに軽く頭をゴンゴンと打ち付けてやったことがある。そしてさっさと店を後に出てきた。不意を喰らった相手は激しく怒ってぼくを追いかけようとしたけど、スナックにいた女性たちがその相手をだめって押さえ込んでいた。ぼくの一生で喧嘩らしき物はそれぐらいだ。その喧嘩の遠因は彼女にあるのだろと思う。
その男は彼女を口説こうとしていたのだけど、彼女は相手にしなかった。ちょっとはいい男ではあったけどそれはなぜかというと、その男の彼女にそのスナックで知り合って、彼女に先輩としていろいろ人生の恋愛や男と女の間のことなどアドバイスしてあげているのだ。だからその男のこと性癖みたいな事も聞いて知っているのだ。彼女は店の中では表面上誰にも恥をかかすような態度を取らない。それが楽しむ上のルールだと思っているからだ。だから落としやすそうに男どもは思うのだろう。
ところがそうは行かない。それがぼくと一緒に歩いているので、あいつよりは俺のほうがきっとましなはずだと思うのだろう。だから、他の客の男はなんであいつがもててと思っているのじゃないかと思われるような雰囲気を感じるときもある。それも致し方ないだろう。でも人は最初は外見に魅かれるかもしれないが、意外やそういったものばかりでも無い場合のほうが多いみたいだ。
ぼくは派手な女が好きなのでそう思われることは大好きだ。それはぼくの自慢でもある。彼女みたいな派手な感じでいて上品さを持っている女性となら何処でも、ぼくに対してではなく彼女がいるからどんないい扱いをしてくれる。また彼女はそういったことに慣れているのでオーダーの仕方も上手で、分からない物を分かったような顔をしたりしないでちゃんと質問をして説明を受けて、その上でチョイスするかしないかを決める。出来れば曖昧にしようとしやすいぼくには、そういったことも勉強になる。
そんな彼女とさらに喧嘩をしたりして、なんだかんだで一年が経った。ぼく達は知り合ってからもう一年も付き合っているのだ。その間彼女は二度ばかり長期に沖縄の実家に里帰りで帰っていて寂しい思いもした。今年の正月も沖縄に帰っていて、その彼女から電話があっていろいろ話をしているうちに、ついには口論となってしまった。電話を切った後、小一時間ほどして返し彼女から再び電話があった。ぼくはてっきり謝りの電話だろうと思ったら、彼女はぼくとはもう付き合わないと言った。
口論の内容は彼女にも利はあると思うけど、ぼくが思うに明らかに彼女の一方的過ぎる内容だったのだ。それで、ぼくはその電話は謝りの電話とばかり思っていたのだ。それが分かれるという電話だ。ぼくもそれじゃあそうならと、あっそう、はいはい。じゃあさようなら。と言ってぼくは完全にへそを曲げてしまった。ちょっとというかかなり寂しい思いだったけど、ぼくもそれならそれで彼女ともう付き合わないつもりでいた。
それから10日ほど経ったら沖縄の彼女からまた電話がかかってきた。彼女なりに電話をする口実を何か見つけてかけてきた電話だ。ぼくは極力事務的な応答をして必要な事を教えてやって電話を切った。彼女が沖縄から戻ってきたその日に電話がかかってきた。帰ってきました彼女が言った。そう、良かったねお帰り。じゃあねと言いかけたら、お帰りってそれだけなのって、彼女もそれでかなり頭にきたみたいだと思う。お土産もう上げないといって彼女が電話を切った。
それから例のスナックで後から来た彼女と顔を会わせたけど、ぼくは極普通にというか半分彼女を無視したようにしていた。そのときぼくは少し酔っていた。先に店を出てから彼女の携帯に電話を入れて出て来いと言ったけど、店で会っても無視しているくせに行かないと断られてしまった。それじゃあもうそれでいいやと思い彼女をあきらめようと思うことにした。
二度目に例のスナックで会ったときにも彼女はあとから友達とやって来た。ぼくは零時ごろになったので勘定をして帰ろうとすると、彼女がぼくを呼ぶ。何処かへ行くのって聞いてきた。多分連れて行って欲しかったのだろうけど、人間のできていないぼくは、帰るんだよ、じゃあねと言って帰ってきた。
それから半月後の深夜彼女から電話が入った。ちょっと寂しげな声なので、ぼくもどうしたと素直に彼女の話を聴いた。ぼくの声が聞きたいなあと思ってと言うので、今何処にいるの聞くと何所どこだと言う。じゃあぼくも行くと言うと彼女はその店から車で直ぐにぼくを迎えに来た。ああ、もう彼女と喧嘩をするのは止めようと思ったのはそれからだ。このままどうなるかなんて分からないけど、彼女はぼくにとって違う世界を見せてくれる人だ。もう少し彼女に合わせてぼくは人間が大きくなろうと思うことにした。
それから彼女はまた沖縄に帰った。一ヵ月半ほどして戻ってきた彼女は、沖縄にいるときから7月は自分の誕生日誕生日と騒ぎまわっていたけど、帰ってきても騒いでいた。ばかったれ、去年のぼくの誕生日なんか触れもしないで素通りしたくせに何が誕生日かって言うと、じゃあ私の誕生日とあわせて一緒にやろうって、あまりにものなんの屈託もなさ。その彼女の根明るさがぼくにはうれしいのだ。
Cools
|