大変美味しい回転寿司屋さんがありました。新鮮なネタでとても美味しく評判の回転寿司屋さんです。そのうえ回転寿司だから当然といえば当然ですが、値段も一皿100円からととてもリーズナブルな料金です。ひとり7-8皿とたくさん食べて1,000円ぐらいです。
そんな回転寿司屋さんですからいつも大忙しです。入れ替わり立ち代りお客様が入ってきます。特に昼時と午後7時ごろの夕食の時間になると、お店の人たちは本当に忙しそうに働いています。それでも笑顔を絶やさずにこにこと接客しています。
その笑顔が絶えないのには理由があります。この回転寿司屋さんで働く皆さんが、特に心待ちにしているお客様たちがいらっしゃるからです。そのお客様たちのことを考えるだけで思わず笑顔が出るのです。そのお客様たちのことを考えると、なんだか自分も幸せになったような気がしたからです。
しかし、あれから何年も何年も経ちましたが、どうしたわけかそのお客様たちを見かけなくなってしまったのです。いつかまたきっと来てくださる。そのことを思い、笑顔でお迎えできるようにと心がけているのです。
何年も何年も経っても、回転寿司で働く人が入れ替わることがあっても、この話は人から人へと受け継がれていきました。だからここで働く人たちは、そのことを思ってにこにこと笑顔で接客しているのです。いつかきっとそのお客様たちがまた来てくださると信じているのです。
ある日のこと、身なりのよい上品な年配のご婦人の方が青年二人を連れて回転寿司のお客様としてやってきました。二人の青年は、すでに社会的にそれなりの地位を得ている方たちのようでした。見た感じからしてとても立派で上品な方たちです。とても、値段の安い回転寿司などでお食事をなさるような雰囲気の方たちには見えません。青年の一人が先に店に入りました。そしてご婦人を招き入れるように店に誘導しています。
店の店員さんたちで、その人たちのことを特に気がついた人はほとんどいませんでした。古くから入る店員さんだけが、そのお客様を見て少し考えて、「あれっ」というような顔をしました。やがてその古くからいる店員さんはおどろいたようなうれしい顔をして、持ち場をほかの人に任せて急いで事務所のほうへ駆け込んでいきました。
ご婦人が、「ほら、あそこのいつもの席が空いているわ。こんなに混んでいるのに丁度よかったわね」と、連れの二人の青年にいいました。そのもの言いからどうやら年配のご婦人は、二人の青年の母親のようでした。二人の青年もうれしそうに三人でその空いている席に着きました。
三人はそれぞれに自分の好きなお寿司の皿を取りました。三人が取ったお皿はどれも一枚100円のお寿司でしたが、それぞれ違う種類のお寿司でした。すると三人は一皿に二つのったお寿司のひとつを交換しています。三人で一枚ずつ取ったお寿司の皿には二種類のお寿司がのっています。お母さんはそれを見てうれしそうでした。母と息子二人は目を合わせて、それからちょっと悪戯っぽく微笑みあいました。
一時間ほど楽しんでお母さんと二人の息子たちは帰っていきました。いつもの席の上には、ひとり一枚ずつで三枚の皿が残っていました。お会計も300円でした。二人の息子のポケットというポケットは、なんだかぷっくりと膨らんで服が下に引っ張られて重たそうでした。その様子をにこにこしながら回転寿司の経営者の方が眺めていました。
そのお客様たちが席に着いたころには、ほかの店員たちもその方たちが例のお客様たちだということが知らされていました。初めてそのお客様にお目にかかった店員も、その方たちにお会いできたことで、泣き出さんばかりににこにことうれしそうでした。板前さんは張り切って握りを作って回転台にたくさん載せました。
そのお客様たちが店の外に出ると、すっと私服の警備ガードマンが近寄ってきました。私服ガードマンは言いました。「お客さんちょっとそのポケットの中調べさせてもらえませんか」。青年の膨らんだようすのポケットを指差して、言うか言わないかの内にガードマンはポケットの外側に触れ硬い感触を確認しながら、「こんなことをしちゃあいけませんねえ」と言いながらポケットの中に手を入れて、回転寿司の皿をポケットの中から何枚か取り出しました。
ガードマンはやっぱりねというような顔をして、「じゃあちょっと事務所のほうでお話を聴きましょうか」。おどろいたような顔の三人を促すようにして事務所のほうに誘導していきました。事務所には経営者の方と古くからいる店員が何人か集まっています。
経営者の方はにこにこしながら言いました。「お客様お久しぶりです。お元気そうですね。何か大変立派になられましてうれしゅうございます。つきまして以前より何度も何度もごまかしていた寿司の代金と、お持ち帰りになられた寿司皿の代金を今日こそはちゃんと払っていただきたいと思いますっ」。経営者の方は、このお客様たちから代金が回収できたら、従業員の皆さんの慰労会を盛大に開いてあげる約束をしていたのです。
「うちみたいな良心的な値段で、精一杯良いネタを使って薄利多売で何とか商いをやっているところで、こんなことをするなんて、とんでもないご家族の方たちですね。伝え聞くところによると事業にも成功なさって、そうとうなお金持ちだそうじゃないですか。息子さん一人は会社の社長様だし、もう一人の方は大学の助教授だそうじゃないですか。そんな方たちが一皿100円の寿司代金ばかりか、それをごまかすために皿まで持って帰っちゃうなんて、あんまりじゃないですか」と言いながらも、経営者の方はにこにこと落ち着いて話をしています。
二人の青年はしょぼんとしています。母親のほうは悪びれた様子もなく、「だってここのお店の人たちいつもにこにこしているから、もし見つかってもそんなにおこられないと思って。それにそのころは私たち大変な貧乏でお寿司なんて食べることが出来なかったんです。それで、回転寿司なら食べたお皿で料金を計算するから、一人一枚ずつ食べたことにして、ほかの食べた皿は隠して持って帰っちゃったのよぉ」。
「貧乏でも一杯の掛けそばならまだ可愛いけど、腹いっぱい食べて300円分しか払わない為に、食べた皿まで隠して持って行っちゃうなんて」、ここまで言うと常日頃店員に「にこにこと人に接しろ」と厳格に言っていた経営者も、ついには泣きそうな顔になって、「け、警察を呼んでくれ」とガードマンに言いました。経営者の方もあれから意地になって、その人たちを捕まえる為に私服ガードマンまで雇っていたのです。
皆さんも回転寿司の皿や焼き鳥の串などごまかさないようにしましょうね。ちゃん、ちゃん。えっ、誰もそんなものごまかさないって。そうか、それじゃあこの皿は・・・
ふ、ふ、ふ
Cools
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