タイム・クライシス
2007/10/6
 「17日ね」と言って彼女は帰って行った。

 「17日か」ちょうど一週間後だな。ぼくは腰ジーンズでTシャツの上にダウンボタンの半袖のシャツを羽織った。胸のボタンは留めない。そしてドアからガレージへ向かう。部屋から出る意思を持ってドアに向かえばドアは自動で開く。ガレージには「ホース」タイプの4人乗りのモービルと、「ジャンゴー」というオープンタイプの二輪モービルが停車している。ぼくはジャンゴーに跨った。ジャンゴーは低いうなりと共にエンジンを始動させた。思い切りアクセルをふかし急発進した。ガレージに繋がるチューブ・ウェイのオートロックは自動で解除され、ぼくはジャンゴーに跨ってチューブ・ウェイへ飛び出した。

 ぼくを乗せたジャンゴーは風を切って走る。そのままスピードを上げてチュウブ・ウェイのドーム壁面をへと上がって行き、そのまま天井まで昇って反対側の壁面へとスパイラルを繰り返して走る快感がたまらない。チューブ・ウェイは区画から区画へと移動するための手段だ。移動のみならずこんなクルージングの楽しみもある。しかしチューウ・ブウェイから見える景色はすべてモニタに表示された仮想の世界だ。前の星での風景などが映し出されているのだ。大陸をうねる大河、荒れ狂う海、広大なジャングル、摩天楼をいただく高層ビルディング、野生の動物の姿、そして人の群れなど、遠い先祖が住んでいたという星の世界のライブラリだ。ぼくには大昔のそんな世界には何の感傷もない。今となってはただの絵空事にしか過ぎない。ライブラリはGoogleから供給されている。Googleは前の星ですべての情報をインデックス化したWebコンテンツ・ネットワークだ。この世界自体がGoogleという情報の均等性にゆだねられている。

 「ん、なんだあれは?」モニタに映し出されたのは何かの品評会のようだ。手の上に載るほどの、あれは植物と言うやつだろうか。半円のドームの上に尖った緑色のものが左右交互に何本か出ている。どうやらその植物のいろいろを展示しているようである。前の星にはいろいろな趣味があったそうだから、モニタに流れているのもそのひとつなのかもしれないなあ。「植物」とか言ったっけ。この星にはインテリアとしての二酸化炭素触媒の二酸化炭素を吸収し酸素に変える人工的な植物らしきものはあるが、それ以外で葉緑素を持つ植物と言えばクロレラ以外は培養していない。クロレラはぼくらの食料になる。モニタに映るのは3000年も前の星の時代の趣味。優雅と言うのか幼いと言うのか、のんびりしていた時代なんだろうなあ。「あっ、危ない」「キ、キーッ!」ぼくは思わずシフトダウンしてブレーキを踏んだ。

 「3万、3万、他は無いかあ。はい、じゃあその人」「えっとこれは、おおっとお、富貴殿ね。はい、3万から」「4万!」「4万5千っ」「5万」「4万5・・・はい、各駅は止まらないよ5万。只今5万。もっとあると思うがなあ・・・」「55っ)」「ゴゴっ、威勢がいいねえ。5万5千、5万5千」「6万だあ」「はい、6万その人。お兄ちゃん、良いの落としたよ」。「な、なんだこれは・・・」気が付くとぼくは「6万だあ」と言う大きな声を出していた。い、一体ここはどこだ。なにやら黒い器に入って、半円に盛り上げた上に左右に尖ったものを交互に出したものが手元にやってきた。尖ったものの回りは白く覆われていて、とてもきれいだ。ぼくは一目でこれが気に入ってしまった。隣の人が「良い富貴殿を買ったね」と言った。富貴殿と言うのか。なんてなんて可愛いんだ。しかも気品がある。

 そのとき頭の中で「17日ね」と言う声がした。ぼくは声をかけてくれた隣の人に今日は何日ですかと聞いた。「ん、今日は17日だよ、どうしたい? あんたどこから来たんだい」。「ぼくは東京から来ました」えっ、ぼくは東京なんて知らないよ。何でそんな言葉しゃべっているの。「すみません今は何年ですか」と聞くと、隣の人は「今は2007年に決まっているだろう。9月だよ、17日は敬老の日だよ」。「そ、そうですよね」とぼくは分かりもしないのに相槌を打った。3007年じゃないんだ。2007年じゃあ1000年も昔だ。そうするとここは前の星、地球なのか。まさかそんなことがあるなんて、一体ぼくはどうしちゃったんだろう。ポケットをまさぐると財布があった。財布の中には通貨と思しきものがあったので、10000円と書いてある紙を6枚抜いて、会計らしきところに渡して会場を後にした。ぼくの手には富貴殿がある。でも、なんで?

 「17日ねか」ぼくは、一人つぶやいて目が覚めた。今日は彼女の誕生日だ。しかし、おかしな夢を見たもんだ。なんだか頭が痛いや。ベッドの横のサイドテーブルに目をやると、どこかで見たような不思議なものがおいてある。なんだろうこれは。黒い器に半円に盛り上げたスポンジのようなものの上に、尖った1cm幅で長さ10cmほどで回りが白で中が緑色の物を左右交互に五枚ずつぐらい出したものが置いてある。これぼくは知っている。富貴殿だ。前の星、地球ではやっていたものだ。確かぼくは、その交換会らしき会場でこれを手に入れたのだ。でも、あれは夢ではなかったのだろうか。夢じゃないにしてもそんなことは現実にありえない。じゃあ、なぜ富貴殿がここにあるのだ。

 「ピンポーン」チャイムが鳴った。自動認証システムによりドアロックが解除され、彼女が入ってきた。「おめでとう、誕生日」彼女はそういってぼくにキスをした。えっ、17日って彼女の誕生日じゃなかったのか。「プレゼント気に入った」彼女はそう言ってサイドテーブルの富貴殿に目をやった。一体、どういうことなんだ、ぼくは頭が変になっちまったのか。「富貴蘭栽培を始めて、富貴殿が欲しい欲しいって言っていたから奮発しちゃったわよ。高かったんだからね」と彼女は言った。ぼくは「あ、ありがとう」といった。実際は何がなんだか分からなかった。「さあ、ベランダの栽培棚に富貴殿を置いてみたら、きっと素敵よ」。彼女がベランダへのカーテンを開けると、そこにはささやかな栽培棚があった。確かに同じような植物が鉢に植わって幾つも置いてある。

 「あら、なんだかあまりうれしそうじゃないわね」彼女は口を尖らせて、ちょっと顔をコケティッシュにして目を丸く見開いた。「そんなことはないようれしいよ」ところで、ぼくは幾つになったんだろう。今年は何年だった。「おかしな人ね、今年は5007年よ」彼女は続けていった「そういえばこの富貴蘭って不思議な物語があるのよね」。そう言って彼女は語りだした。「この世界には今は植物といえるのは私たちの食料のクロレラと、この富貴蘭だけよね。この富貴蘭は、今から2000年ほど前ある人がどこからともなく持ち帰ったとされるのだけど、その人だけじゃなく私たちはこの世界からどこにも出ることはできないでしょう。そのどこかが私たちの先祖が住んでいた地球とされるのだけど、そんなことってとうていありえないでしょう」。

 「そうなんだ」とぼくは彼女の言葉を引き継いだ。その謎の人物はぼくの先祖でもある。そのことを知ってぼくは富貴蘭の栽培を始めたんだ。このことはまだ彼女も知らない。「そうだった」。ぼくはライブラリーでそのことを知ったのだった。そのときに持ち帰ったのはフウランの富貴殿と言うもので、今の富貴蘭はそのときの富貴殿を元に品種改良されていろいろな品種が生まれていて、この世界でも富貴蘭の栽培がブームになっている。そして彼女がぼくの誕生日にプレゼントしてくれたのは、富貴殿と言う同じ名前だけど新しく再現された富貴殿なのだ。なぜぼくの先祖が、どうやってこの富貴殿という富貴蘭を持ち帰ったのかが最大の謎とされている。その謎は、多分ぼくが経験したことと同じだ。ということはこの富貴殿は再現された富貴殿ではなく、3000年前の本物の富貴殿である可能性が強い。

 「あなた、なにニヤニヤしてうれしそうなの。で、私の誕生日プレゼントはどこなの?」しまった、彼女とぼくは同じ誕生日だったのだ。「17日ね」は「17日か」なのだ。「も、もちろんあるさ、これから素敵なディナーショーへ行くのさ」「あら、すてき。でも、本当なの?」「も、もちろんさ。前から決めていたんだ」ぼくはこれからの出費を考えると、次に欲しかった満月が買えるのになあと、ちっぴり残念だった・・・いつの時代も富貴蘭愛好家の考えることは同じようで(笑)

(*^^)//。・:*:・゚'★,。・:*:♪・゚'☆パチパチ



遙かな未来にも・・・富貴蘭栽培はきっとありますよね(笑)

 もう20年ぐらい富貴蘭と言う植物を栽培している。その富貴蘭とで
SFっぽいものを作ってみた。たぶん「テレビジョン・シティ」だったか、「テレ・シティ」のパクリです。一度読んだだけではわたしの理解力では,
意味内容はさっぱり分からなかった(~~;)
Cools